熊本市東区の住宅街。街並みに馴染む味わいのある外壁や窓からのぞく土間空間に思わず目を奪われる佇まいの家。この家に住むSさんご夫妻は、新居を検討していた際、奥さまのおじいさまの家が空き家となることに。"人が住まなければ、家は傷んでしまう一方。馴染み深い家を守りたい"と、新築から急遽リノベーションへと路線変更し、現在の居を構えた。
「祖父の家は昔ながらの日本家屋で譲り受けた時は、広い庭は荒れ放題。家も広すぎて手入れが大変だから...と身内に誰も住まい手が居なかったんです。"だったら思い切ってリノベーションしよう! "って夫婦で決めたんです」と奥さまは明るい口調で話す。
いざリノベーションを始めると、建築士であるご主人の手により、奥さまはほとんど口出しせずとも自分たちにピッタリの住まいが完成していたとか。それはご主人のプロとしての力量はもちろん、互いの仕事や性格、趣味を理解し合ってきたおふたりの努力のたまものでもあり、奥さまへの想いが詰まった未来の時間を紡ぐ家でもある。広い土間ではパーティを、裏庭では望遠鏡で天体観測、ウッドデッキは外の風を感じる食事に大活躍。「何でもつくる人」と奥さまが称するご主人に共鳴するご夫妻の価値観に形を与えた新居は、どんな時も自由な心にフィットする。
手に余る機能性は要らない。こだわりを丁寧に具現化して
建築士であるご主人と、メディアの仕事をする奥さま。共働きで慌ただしい日々ではあるものの「昔から家で過ごす時間が大好き」というおふたりにとっては、食洗機も室内干しも、洗濯乾燥機も必要なかったとか。それよりも料理好きなおふたりにとっては、使い勝手のいいキッチンを丁寧にしつらえることの方がずっと大切なことだったという。
普段から「素材さえあれば何でも作るのが当たり前」というSさんご夫妻。普段から友人や仲間を招いて大勢で食事をする機会も少なくないとか。「洗った食器はカウンターにジャンジャン並べて拭きあげればいい。十人単位の来客でも片付けも早いんですよ」と奥さまは声を弾ませる。「夫は料理によって出汁の材料を変えるなど、料理の基本が自然と身に付いていた人。私も随分刺激を受けました」。今では奥さまも自家製ベーコンをはじめ、素材が織り成す料理の世界をたしなんでいる。